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 相続欠格・推定相続人の廃除

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相続欠格

 相続欠格って?
 
  相続欠格というのは、相続において、特定の相続人につき
   一定の不正事由(相続欠格事由)が認められる場合に、
   その者の相続権を失わせる制度のことだよ。

相続欠格事由

 以下が相続欠格事由になるよ。

 1:故意に被相続人、先順位・同順位の相続人を死亡するに至らせ、
   または至らせようとしたために刑に処せられた者(民法891条1号)


 ※「故意」とは、殺人の故意を指す。
   殺人の故意が認められない過失致死等の場合は該当しないので、
   相続人となることができる。

  「刑に処せられた者」が要件であるため、執行猶予付きの有罪判決において
   執行猶予が満了した場合や実刑判決が確定する前に死亡した場合は
   欠格事由にあたらない。

 

 長男(被相続人)の相続に関して《上図》、
   「父(祖父)」は第2順位であり、「子(孫)」は第1順位の相続人であるので
   民法891条1号の「故意に先順位の相続人を死亡するに至らせ、刑に処された者」に該当し、
   長男(被相続人)の相続について相続欠格者となるよ。

   この場合の相続人は「配偶者」と「長男の直系尊属(父と母)」になるよ。



 「子」は、被相続人(父親)を殺害したため、
   民法891条1号に規定する「被相続人を故意に死亡するに至らせ刑に処された者」に
   該当するので、父親の相続に関して相続人になることはできないよ。


 「子」は、平成29年に病気で死亡した被相続人(母親)の相続に関し、
   同順位の相続人であった「父親」を平成23年に殺害し刑に処されたため、
   民法891条1号に規定する「故意に同順位の相続人を死亡するに至らせ、刑に処された者」に
   該当し、母親の相続に関して相続人となれないよ。

   この場合の相続人は「配偶者(長女)の直系尊属」になるよ。
 相続欠格事由(その2)

  2:被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、
     または告訴しなかった者(民法891条2号本文)

     但し、是非の弁別のない者の場合又は
     殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であった場合を除く。



 上図の場合において、 「祖父」が「被相続人(父)」を殺害したことを知って、
   これを告発または告訴しなかった場合には相続欠格者にはならないよ。
   これは「自己」からみて「祖父」は「直系血族」にあたるからだよ。

   上図の場合において、 「兄弟姉妹」が「被相続人(父)」を殺害したことを知って、
   これを告発または告訴しなかった場合には相続欠格者になるよ。

   これは「自己」からみて「兄弟姉妹」は「傍系血族」にあたるからだよ。



 相続欠格事由(その3)

  3:詐欺・強迫により、被相続人が相続に関する遺言を
     作成・撤回・取消し・変更することを妨げた者(民法891条3号)


     相続に関する遺言についての妨げなので、後見人の指定、後見監督人の指定といった
   「親族法上」に関する事項についての妨げは相続欠格事由にはならない。
 相続欠格事由(その4)

  4:詐欺・強迫により、被相続人に相続に関する遺言を
     作成・撤回・取消し・変更させた者(民法891条4号)

 相続欠格事由(その5)

  5:相続に関する被相続人の遺言書について偽造・変造・破棄・隠匿した者(民法891条5号)

  最高裁昭和56年4月3日判決

 相続に関する被相続人の遺言書がその方式を欠くために無効である場合、
 または、有効な遺言書についてされている訂正がその方式を欠くために無効である場合に、
 相続人がその方式を具備させることにより、有効な遺言書としての外形又は有効な訂正としての
 外形を作出する行為は、同条五号にいう遺言書の偽造又は変造にあたるけれども、
 相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨で、
 右の行為をしたにすぎないときには、右相続人は同号所定の相続欠格者には
 あたらないものと解するのが相当である。
 

 被相続人の意思を実現させるべく、遺言書の法形式を整えるため押印行為を
   したにすぎないので民法891条5号所定の相続欠格者に当たらないと判断されたよ。



  ■最高裁平成6年12月16日判決

  原審の確定した事実によれば、被上告人Yは、父であるDから遺言公正証書の正本の保管を託され、
 Dの法定相続人(被上告人Yのほか、 Dの妻E、子K、上告人X、子G)の間で遺産分割協議が
 成立するまで上告人Xに対して遺言書の存在と内容を告げなかったが、
 Eは事前に相談を受けてDが公正証書によって遺言をしたことを知っており、
 Eの実家の当主であるH及びD家の菩提寺の住職であるIは証人として
 遺言書の作成に立ち会った上、Hは遺言執行者の指定を受け、また、被上告人Yは、
 遺産分割協議の成立前にGに対し、右遺言公正証書の正本を示してその存在と内容を
 告げたというのである。

  右事実関係の下において、被上告人の行為は遺言書の発見を妨げるものと いうことができず、
 民法八九一条五号の遺言書の隠匿に当たらないとした 原審の判断は、
 正当として是認することができる。





   ■平成9年1月28日判決

  相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、
  相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、
  右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者に当たらない。

相続欠格の効果

 相続欠格事由に該当するとどうなるの? 

  法律上当然に相続資格を喪失するよ。
    また、受遺能力(遺言によって財産を譲り受ける能力)も喪失するよ。

    そして、その効果は相対的で、例えば、父親の遺言を偽造した場合、
   父親の相続に関しては相続人とはなれないが、その後、母親が死亡した場合、
   母親の相続に関して相続人となることができるよ。




相続欠格者に対する宥恕(ゆうじょ)

   宥恕(ゆうじょ)とは、寛大な心で罪を許すことをいいます。

    そこで、被相続人は相続欠格者を宥恕し、相続人としての資格を回復させることができるかが
   問題となりますが、民法では相続欠格者に対する宥恕について明文がなく、
   否定説と肯定説で学説が分かれています。

  相続欠格者の宥恕を肯定する説(多数説)

 ・「生前贈与」や「遺言」によって、相続資格を有さない法定相続人以外の第三者に
   遺贈することも認められていることから、被相続人には広く財産処分の自由が保障されている。

  ・相続欠格者を宥恕しようとする被相続人の意思を尊重することが、、、、
   被相続人の財産処分の自由を認めることになる。

 【関連する審判例】
 相続欠格者に対する宥恕を認め、相続人適格を認めた審判例 (平成22年10月5日審判)(PDF形式)


   相続欠格者の宥恕を否定する説

  ・民法には相続欠格者に対する宥恕について明文規定がない。

  ・相続欠格は法律上当然に相続資格を喪失させる制度であるから、
   私人の意思によりこれを覆すことは許されない。

  ・相続欠格事由は公益を著しく害する行為である。。。。。。



推定相続人の廃除(相続廃除)

  相続廃除って?

  相続廃除とは、被相続人が、民法892条の定めるところにより相続権を持つ人間に
   著しい非行の事実がある場合、 家庭裁判所に「推定相続人廃除調停申立て」をすることにより
   推定相続人の持っている遺留分を含む相続権を剥奪する制度のことをいうよ。


  被相続人が「遺言」で推定相続人を廃除する意思を表示する事もでき、
    その場合は、遺言執行者はその遺言が効力を生じた後、遅滞なく、
   その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならないよ。

 民法892条 
 遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して、

 ・被相続人に対して「虐待」をしたとき、または「重大な侮辱」を加えたとき
  ・推定相続人にその他の著しい非行があったときき


 被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。



  【虐待にあたるとして廃除を認めた事例】
  夫が、北海道の自宅で療養中の末期がんを宣告された妻に対して、
 「(電気ストーブを)昼間使う金などない。出て行け。」などと発言したり、
  ガン治療中の妻に対して「いつ死ぬか分からない人間にかつらは必要ない」、
 「死んでも構わない」という趣旨の発言を繰り返したことが甚だしい虐待に該当するとして、
 推定相続人であるその夫の廃除を認めた。
 (釧路家裁平成17年1月26日)

  【虐待又は重大な侮辱にあたるとして廃除を認めた事例】
  小・中・高等学校在学中を通じて非行を繰り返した当該相続人(被相続人の次女)が、
 暴力団の一員であった者と婚姻し、父母が婚姻に反対であることを熟知していながら、
 披露宴の招待状に招待者として父の名を印刷し、父母の知人等にも送付した行為
 (東京高裁決定平成4年12月11日)

  【虐待、重大な侮辱又はその他著しい非行にあたるとして廃除を認めた事例】
  父の金員を無断で費消したり、多額の物品購入代金の支払いを父に負担させたうえ、、
 これを注意した父に暴力をふるい、その後家出して行方不明になっている長男の行為
  (岡山家裁審判平成2年8月10日)

  【廃除原因にあたらないとされた事例】
  遺言により廃除の意思表示があるが、それが被相続人の一時的な激情によるものである場合合
 (大阪高裁決定昭和40年11月9日) 概要→http://www.news-now.net/page003.html

  【廃除原因にあたらないとされた事例】
  不仲が原因で親子が疎遠となり、火事見舞、病気見舞をしなかったとしても、、
 その原因の一端が被相続人にもある場合には廃除原因とはならない。
 (佐賀家裁審判昭和41年3月31日)

  【廃除原因にあたらないとされた事例】
  飲酒や遊びにうつつをぬかす被相続人に対し、
 準禁治産宣告申立(成年後見の申立)の行為をすること。


相続廃除の効果

 相続廃除されるとどのような効果が生じるの?

「審判の確定」または「調停の成立」により、推定相続人は遺留分権を含む相続権を失うよ。


相続廃除の効果発生時期
  
  相続開始前に「審判の確定」または「調停の成立」があった場合は、
   その時から効力を生じるよ。

    相続開始後に「審判の確定」または「調停の成立」があった場合は、
   相続開始時に遡りその効力を生じるよ。

   「遺言に廃除の意思表示」がされ、遺言執行者が廃除請求をし審判が確定した場合は、
   その効力は相続開始時に遡るよ。

  またその廃除の効果は相対的で、父親の相続に関して廃除されたとしても、
   母親の相続に関して相続人になることを妨げないよ。



  相続欠格者と異なり、廃除された推定相続人は遺贈を受けることができるよ。




相続廃除の取り消し
  
 被相続人は、いつでも推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができるよ。

   取消しの請求は「生前であれば被相続人」が、
  「被相続人の死亡後であれば遺言に基づき遺言執行者」が家庭裁判所に請求するよ。



  相続廃除の取消しの効果

  推定相続人の廃除の取消しの審判が確定すると、その推定相続人の相続権は回復するよ。

    推定相続人の廃除の取消しの審判が、被相続人の死後に確定した場合は、
   その効果は相続開始時に遡及し、その推定相続人は相続開始時から相続人で
   あったものとして扱われるよ。



  関連条文(民法895条)
 推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に
 相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、
 遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。

 推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。




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